特集記事

「海底トンネル」

関門トンネル・青函トンネルの排水で活躍‥‥ヨコタのポンプ・バルブ

海底トンネル

島から島へ、私達をあっと言う間に運んでくれる海底トンネル。
便利なトンネルですが、その機能を維持するために多くの設備が日夜働いています。その一つが排水設備です。

トンネルは、それが地上トンネルであれ、海底トンネルであれ、地層や水脈を横切って作られますから、常に湧き出てくる水を排水する必要があります。その量は、大きなトンネルになると日に何千トンにもなることもあります。
地上のトンネルであれば、「水は低きに流れる」ですから、出口に向かって下り勾配をつけておくだけで自然に排水されますが、海底トンネルの場合はそういう訳には行きません。そこで、車両の通る本坑の他に水抜トンネルとポンプ室を作っておき、湧き出てくる水をそこに集めて、排水ポンプで一気に地上に送ることが行われます。

海底トンネル

その排水ポンプに必要な条件とは次のようなもので、場所が場所だけに特に厳しい条件となっており、これらを完璧に満たす高い技術水準が要求されます。

深い地下から地上に送るので高揚程であること。

空気の混入があっても吸上げ運転に支障をきたさないこと。

水撃(ウォーターハンマー)が起こらないように対策されていること。

耐久性があること。

無人自動運転ができること。

保守点検がやりやすいこと。

特に海水を扱う場合には、腐食しにくいこと。


ヨコタは、1953年の会社創業のきっかけが「炭鉱掘進用ポンプ・バルブの開発」だったこともあって、各種トンネル用の特殊ポンプ・バルブは数多く製作して来ましたが、これらの海底トンネルで再び出番が到来することとなりました。そして、数々のノウハウの注ぎ込まれたヨコタのポンプ・バルブが「縁の下の、更にその下の力持ち」として活躍しているのです。


 関門トンネルの場合‥‥ヨコタ自吸式ポンプと無水撃チェッキ弁

海底トンネル 関門トンネル

本州と九州を結ぶ関門トンネルは、1939年に着工、1958年に完成した海底道路です。
国道2号線の車道部と歩行者・自転車用の人道部を備え、全長は 3.5km、海底部の長さは 780m、最深部の海面からの深さは 56m です。

関門トンネルの排水ポンプ及び排水管は、老朽化を防ぐために定期的に新規取替工事が行われています。
1958年の完成当初は、排水ポンプ室には従来型の排水ポンプが設置されていましたが、1973年の新規取替工事の際に、後継機種としてヨコタ自吸式ポンプが採用され、これに置き替える事となりました。
各ポンプ室では、万一に備えて、何台かのポンプをシフト運転しますが、更に排水作業の絶対安全のために、各ポンプには無送水検知器を組み込んだヨコタ無水撃チェッキ弁も取り付ける事となりました。

このヨコタ自吸式ポンプは、それ以降、日夜トンネル内の排水を行い、そのユニークな特性と高い信頼性について最大級の賛辞を頂き、今日に至っています。
1994年から 1995年にかけては、これらヨコタ自吸式ポンプの更新が行われましたが、この更新においては、ポンプ材質に新開発のヨコタ耐海水ステンレス YST130N を採用し、ますます耐久性をアップして、メンテナンス費用の削減にも貢献しています。

関門トンネルで稼働中のヨコタ自吸式ポンプと無水撃チェッキ弁
関門トンネルで稼働中の
ヨコタ自吸式ポンプと無水撃チェッキ弁


ヨコタ自吸式ポンプと無水撃チェッキ弁が選ばれたのはなぜ?

ヨコタ自吸式ポンプが選ばれた理由は、従来一般の自吸式ポンプと比較して、次のような際立った特長があるからです。

抜群の自吸力

特許自吸(気水分離)機構により抜群の自吸力を発揮します。一般の自吸式ポンプでは、「フート弁」の故障による揚水不能を起こしやすいという問題がありますが、ヨコタ自吸式ポンプでは、フート弁が無くても揚水できるほどの自吸力です。

空気が混入しても大丈夫 

揚水中に処理できる空気量が大きいので、空気の巻き込みや混入があっても、排気しながら揚水運転を継続し、条件が復帰すればただちに正規の揚水運転に復元します。鳴水運転(水と空気を一緒に吸い続けること)や気液二相運転も楽々とできます。

低 NPSH

吸込側の水位などの吸込条件が変動してキャビテーション状態となっても、揚水運転を継続できるので、NPSH に余裕をみる必要は無く、変動する吸込条件下でも安定的に運転を維持できます。

山越え吸水配管が可能

一般の自吸式ポンプでは、吸水管の横引き部分には空気溜まりを絶対に作らないよう気を使う必要がありましたが、ヨコタ自吸式ポンプでは、空気溜まりができても確実に揚水しますので、吸水管の敷設は山越え形となってもさしつかえありません。

取扱いが容易

設置時の呼び水(プライミング)の時にケーシング内を満水にする他は、呼び水操作は不要で、取扱いは極めて簡単です。又、シンプルな構造により、保守が容易です。

無水撃チェッキ弁

ヨコタ無水撃チェッキ弁は、一般の逆止弁とは異なり、卓抜な動水理論に基づいて開発された逆止弁(特許)です。ポンプが停止した時、正流から逆流に転ずる瞬間、すなわち管内の流体が停止する時点に弁が閉鎖するので、逆流による水撃(ウォーターハンマー)が発生せず、送水管の破裂やポンプの破損を防止できます。

無送水検知器

ヨコタ無水撃チェッキ弁には、無送水検知器を組み込むことができます。これは、液の流動による弁の動きをとらえてスイッチが働き、流量がゼロに近い時には自動的にポンプを停止し、ポンプの空運転を防止するので、安心して自動運転ができます。


それでは、この関門トンネルで使われている自吸式ポンプを、機種ごとにご紹介します。
どのポンプも、それぞれ独自の仕組みと特長を持っています。


使われているポンプその1「自吸多段渦巻ポンプ USM 型」

水抜トンネルの底に溜まった海水を吸い上げて一気に 65m 上の地表に押し上げる排水ポンプとして、6台使われています。
多段で高揚程、しかも特許自吸機構により抜群の自吸性能を発揮する頼もしいポンプです。

代表的なポンプ仕様

型式

USM-3-1510

仕様

150mm x 3.3m3/min x 85m x 1750min-1 x 75kW

付属の無水撃チェッキ弁仕様

型式

SL-NBP-200

仕様

口径 200mm、JIS 10K、無送水検知器付き


関門トンネルで稼働中のヨコタ自吸多段渦巻ポンプ USM 型
関門トンネルで稼働中のヨコタ自吸多段渦巻ポンプ USM 型
関門トンネルで稼働中のヨコタ自吸多段渦巻ポンプ USM 型

1:

自吸多段渦巻ポンプ USM 型

2:

吐出弁

3:

無水撃チェッキ弁(無送水検知器付き)

4:

フート弁(通常は不要ですが、この場所では起動・停止が極めて頻繁なため設置してあります。)


ヨコタ 自吸多段渦巻ポンプ USM 型
ヨコタ 無水撃チェッキ弁 SL-NBP 型
ヨコタ 無送水検知器 BP 型
自吸多段渦巻ポンプ USM 型
無水撃チェッキ弁 SL-NBP 型
無送水検知器 BP 型

USM 型の自吸の仕組み:

渦形室は大小2つの通路からなるセミダブルボリュートの1段ケーシングと2段吸入口を装備した2段サクケーシングで構成しています。

1.循環流れ

自吸中にはセミダブルボリュートの通路 A から吐出された水は通路 B-C を循環して羽根車に戻り、再び通路 A に吐出されます。

2.気泡連れ出し

この循環流れは羽根車内の強い溝渦流 D で中央部の空気を気水混合体とし、通路 A に連れ出します。

3.気水分離及び排気

気水混合体は通路 A から室 B に導かれて分離され、空気は排気弁より排出され、水は2段吸入口により、多段側に送り出されることなく、再び循環流となって1段ケーシングに戻り、自吸作用を繰り返し、完了します。

自吸多段渦巻ポンプ USM 型の自吸の仕組み



使われているポンプその2「自吸渦巻ポンプ UHN、UHNM 型」

一部は海水の排水用として、他は雨水の排水用として、合計8台使われています。
単段でも高揚程、しかも特許自吸機構により抜群の自吸性能を発揮する、これまた頼もしいポンプです。

代表的なポンプ仕様

型式

UHN-2520

仕様

250mm x 5.2m3/min x 21m x 1750min-1 x 37kW

付属の無水撃チェッキ弁仕様

型式

SL-SNP-250

仕様

口径 250mm、JIS 10K、無送水検知器付き

自吸渦巻ポンプ 自吸式ポンプ

代表的なポンプ仕様

型式

UHNM-0520

仕様

65mm/50mm x 0.5m3/min x 85m x 3500min-1 x 15kW

付属の無水撃チェッキ弁仕様

型式

SL-NBP-80

仕様

口径 80mm、JIS 10K、無送水検知器付き


自吸渦巻ポンプ UHN、UHNM 型 自吸式ポンプ
自吸渦巻ポンプ UHN、UHNM 型
自吸渦巻ポンプ 自吸式ポンプ


UHN、UHNM 型の自吸の仕組み:

渦形室は大小2つの通路からなるセミダブルボリュートと吐出ノズル部の空洞受で構成されます。

1.循環流れ

自吸中にはセミダブルボリュートの通路 A から吐出された水は 通路 B-C を廻って羽根車に戻り、再び通路 A に吐出されます。

2.気泡連れ出し

この循環流は羽根車内の強い溝渦流 D で中央部の空気を気水混合体とし、通路 A に連れ出します。

3.気水分離及び排気

気水混合体は通路 A から吐出ノズル部 B へサイクロン状に導かれて自動的に遠心分離され、水は再び循環流となって B-C に戻ります。そして、遠心分離された空気は空洞受 E で受け止められ、背圧に対して確実に圧縮排気されます。

UHN、UHNM 型の自吸の仕組み 自吸式ポンプ


使われているポンプその3「水中モーター付き自吸渦巻ポンプ UHPR 型」

海水を吸い上げる排水ポンプですが、特に海水で冠水する可能性のある場所で、3台使われています。
ポンプ本体は、上記 UHN、UHNM 型と同じ特許自吸機構により、抜群の自吸性能を発揮します。その上で、水中モーターを組み込んで完全防水型とし、更に、材質はヨコタ耐海水ステンレス YST130N を採用していますので、万一海水で冠水しても全く心配ありません。
この独創的な仕組みと材質により、極めて信頼性の高いポンプとして高い評価を頂いています。

代表的なポンプ仕様

型式

UHPR-1520

仕様

150mm x 3.3m3/min x 20m x 1750min-1 x 15kW

付属の無水撃チェッキ弁仕様

型式

SL-NBP-150

仕様

口径 150mm、JIS 10K、無送水検知器付き

ヨコタ 水中モーター付き自吸渦巻ポンプ


 青函トンネルの場合‥‥ヨコタ無水撃チェッキ弁

本州と北海道を結ぶ青函トンネルは、1964年に着工、1987年に完成した世界最長の海底鉄道トンネルです。
在来線のみならず将来の新幹線も通れる構造になっており、全長は 53.9km、海底部の長さは 23.3km、最深部の海面からの深さは 240m に達します。

トンネル内に湧き出てくる海水は、高圧ポンプで地上に排水されますが、地上までの高さは約 250m にもなります。万一ポンプが緊急停止した場合の逆流を防止するために逆止弁(チェッキ弁)が設けられますが、この逆止弁で水撃(ウォーターハンマー)が起きると不測の事態が生じかねません。
そこで、この重要な逆止弁には、高い信頼性で知られるヨコタ無水撃チェッキ弁が採用されました。合計 21台が 1986年に設置されて、ポンプ設備の安全を守り続けています。

無水撃チェッキ弁仕様その1

型式

SL-SN-350

仕様

口径 350mm、JIS 20K 及び 30K

無水撃チェッキ弁仕様その2

型式

SL-SNP-300

仕様

口径 300mm、JIS 20K 及び 30K、無送水検知器付き

ヨコタ 無水撃チェッキ弁
ヨコタ 無水撃チェッキ弁 SL-SNP 型
ヨコタ 無送水検知器 NP 型
無水撃チェッキ弁 SL-SNP 型
無送水検知器 NP 型


ヨコタ無水撃チェッキ弁(特許) が選ばれたのはなぜ?

ヨコタ無水撃チェッキ弁が選ばれた理由は、従来一般の逆止弁(チェッキ弁)と比較して、次のような際立った特長があるからです。

流量に即応して弁が開閉する特許構造により、閉鎖遅れが無く、水撃(ウォーターハンマー)は発生しません。

大型でも一枚弁の簡潔な構造で故障がありません。整備費が格段に削減できます。

ポンプの空転を防止するための保護装置として、無送水検知器も取り付け可能です。


ポンプ停止後の経過時間と圧力変化
ヨコタ無水撃チェッキ弁 一般のチェッキ弁(逆止弁)
ヨコタ無水撃チェッキ弁 一般のチェッキ弁


ヨコタ耐海水ステンレス YST130N について

YST130N は、耐海水性の材質としてヨコタが独自に開発した二相ステンレス合金で、驚異的な耐海水性があります。
実証試験の結果、YST130N の特に優れた耐隙間腐食性と耐孔食性が証明されました。

耐隙間腐食性

隙間腐食による減量
海水+次亜塩素酸 (90-100ppm)
現地実液試験(試験期間:約1年9ヶ月)
耐隙間腐食性 YST130N

試験後のテストピース
YST130N
SUS316
耐隙間腐食性 YST130N
耐隙間腐食性 SUS316

耐孔食性

孔食による減量
5% 塩化第2鉄 40℃、50Hr
耐孔食性 YST130N

試験後のテストピース
YST130N
SUS329J1
SUS316

耐孔食性 YST130N

耐孔食性 SUS329J1

耐孔食性 SUS316



各製品のより詳しい説明については、
 自吸多段渦巻ポンプ USM、UBM、MEF 型
 自吸渦巻ポンプ UHN シリーズ(UHNM、UHPR 型)
 無水撃チェッキ弁 SL シリーズ
 耐海水ステンレス YST130N
をご覧ください。

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